ドリアンとの道連れ |
マレーシアバターワースペナン島 1998年5月 BERLIN HOTEL マレーシアの5月は暑かった。 ペナン島の空港から橋を渡り対岸のバターワースの『ベルリンホテル』に投宿する。 仕事場はそこから車で小一時間のゴムやココナツ椰子のプランテーションを抜けた畑の真ん中に作られた 現地資本の自動車メーカーだった。 夕食は現地合弁の中国系マレーシア人が毎日違った店に案内してくれる。 マレーシアは食事がうまい。マレー料理、中華料理、シーフードどれをとっても満足できるものだった。 ただ一つの難点はビールが高いこと。 昼間に汗かき夜はビールで喉を潤しおいしい料理を食べる。 そんな生活が2週間もすぎ、いよいよ帰国の日となった。 トロピカルフルーツをほとんど口にしていなかったので果物屋を探した。 街道のあちこちで販売されているフルーツの中でドリアンの山がひときわ目を引いた。 マレー人に言わせるとドリアンはマレーシアが一番うまい。 『タイに輸出しているのは、新鮮でないからそんなにうまくない。ここマレーシアで熟したドリアンが世界一うまいんだ。』 店先に並べている果実のひとつを、絶対に甘くておいしいとの奨めに従い恐る恐る試食してみると何と本当に『甘くてほどよくねっとりしていてうまい』 昔タイで食べたドリアンとは雲泥の差。 しかもあの独特の臭みが殆ど気にならない。 『これだ』と決めて3個買った。日本に持って帰ろうと何の躊躇もなく思った。約600円だった。 ドリアンはその臭気のためホテルでは部屋への持ち込みは固く禁止されている。 合弁会社の事務所で1個づつポリの袋に入れて口はテープで密閉する。念のため3重にする。 現地で購入したハンドキャリーのバッグに入れる。 空港に向かった車の中で若干臭ってくる。 たいしたことないと思い空港に到着。 ところが臭いはきつい。これは客席でひんしゅくを買う恐れがあると思い、空港の片隅で急遽スーツケースに入れ替えた。 X線検査で中身を識別した係員が笑ってこう忠告した。 『あなたが搭乗するマレーシア航空は問題ないがJALでは機内積載は許可されてない』 そのままチェックインカウンターでドリアンの入ったスーツケースを預けてやれやれと思ったが、何故かまだ強い刺激臭が残っている。 手にしているハンドキャリーバッグから臭ってくる。 あんなに厳重に包装したのに残り香がバッグに染みついているのだ。 どうしよう機内ではきっと問題になるだろう。 考えながら歩いていると香水の店があった。 店に入り事情を説明すると笑いながらサンプル用の香水を目一杯バッグの内外に振りかけてもらったら、さすがのドリアンの臭いも強力な香水にまぎれてしまった。。 やれやれこれで終わりだと思っていたが冷や汗を掻いたのは関空に着いてからだった。 スーツケースをターンテーブルから取り出しカートに乗せた瞬間、愕然とした。 強烈な臭いがプンプンするのだ。 税関で捕まるに決まっている。かといってほかに対処のしようがない。 腹をくくって周囲にドリアンの臭いをふりまきながら税関の前に来る。 『お仕事ですか』 『はい』 ぱらぱらとパスポートをめくってから『はい どうぞ』 きっと職員は風邪を引いていたか、花粉症だったのだろう。 関空からリムジンバスに乗る。スーツケースは荷物室であり別だ。 OK 三宮に着く。タクシーに乗る。スーツケースは当然トランクに入れる。 OKだと一安心。 ところが5分も走らないうちにあのドリアンの臭いが室内に充満してきた。トランクと客室は空気の流通があるとこのとき初めて知った。 タクシーの運転手曰わく、『最近この付近は臭いんですよね』 私に気を遣っている様子。 知らぬ顔して窓を少し開ける。 いくら走っても臭いは消えない。 運転手はなぜか押し黙る。 そのまま20分、我が家に着く。 運転手は不審そうな顔をして 『ありがとうございました』 家に入ってすぐにドリアンはとりだし 家の外へ。 衣類はすぐに洗濯。 その他のものはすべて日干しにした後吟味し必要とあらば香水をかけて やっと1件落着。 スーツケースの臭いはとれるまで1週間かかった。 臭い帰国の旅は長かった。 |