停電男
インド アウランバガード  2001年3月   アンバサダーホテル

ラオさんの家に招かれたのはここアウランバガードに来て1週間目だった。
連日の立ち会い業務で疲れていたので本当は断りたかったのだが、その日はたまたま6時すぎに仕事が終わったので少しだけと言うことでお邪魔したのだ。

それにラオさんは夫婦二人きりというのも何となく気軽に行ける感じがした。ラオさん宅に着いたのが7時過ぎ。ところが家の中はなぜか真っ暗である。停電であった。

ラオさんは何度も発電所に電話をかけるがなかなか通じない。20分ほどして通じたが後15分で復旧すると言っているというのだ。
ラオさん曰く「復旧するまで待とう。食事は明るい方が良い。」私は一刻も早く喉の乾きを潤したい心境であったが始めての訪問だったので「ビール飲みながら待ちましょう」と言う言葉をぐっと飲み込んだ。

あにはからんや15分たっても電気はつかない。またまた発電所に電話をかけるラオさん、再び「後15分で大丈夫と言っているから待とう」そしてさらに数十分経過したが闇夜は続く。また電話する。返答を聞いたラオさん曰く「何度聞いても後15分だ」と憤然としている。

外国人の私でさえこのインドでの15分が全く意味が無いことは最初から分かっていたのだが・・・。

インド人の夜は長く、遅い時間に食事を始めるための口実だったのかもしれない。しかたなく外に出て空を眺めると真上にオリオン座と双子座が輝いている。

アジアで星を見るのは始めてのような気がする。闇夜に芳香を放ち咲ている白い花。

こういう忍耐強く待つという作業を何度も繰り返しながらインドの日々は過ぎていくのだ。ついに我慢できずに喉が乾いたと言って催促し、非常灯と共にようやくビール、つまみを出されたのが8時半。

電気が着いてメインデイッシュが出てきたのが9時半、10時過ぎにはラオさんが止めるのをどうにか振り切って帰路にについた。うかうかしていると12時をまわるのは分かり切っている。明日も早くそして日中は暑い。自分の体力だけが頼りの世界なのだ。
 
  コーヒを飲むだけの約束で2回目にラオさん宅を訪問したのはそれから5日後だった。今度は家に灯りが点いていたのでやれやれと思っていたが、敷居を跨いだとたんバシという音がして恐怖の闇が訪れた・・・。

3度目は街で買物をしょうとして店の中へ入ったとたんやはり停電になった。この時一緒だったインド人にこれで3度目だと停電の話をしたら「Oさんが家に入ろうとすると発電所の人間が見張っていて電気を切るんですよ」と言って笑いころげた。
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