追  突  事  故
1997年7月  マレーシアペナン島 

明日は帰国という前夜
ペナン島で現地スタッフ『ダンカン-仮名』と食事をした後土産物へ向かった。

このダンカンは購入したばかりのトヨタのカローラをうれしそうに運転していた。
部長以上は会社が車を供与してくれるが彼は課長である。

自腹で車を購入し業務に使用するのがこの現地合弁会社では普通である。
車が業務に必須のこの国で彼の部下は中古車かあるいはバイクである。

そう言うわけで食後、潮風を受けながらのドライブ。レストランのある海岸道路から街の中に入ったとたん前の車が急ブレーキをかけた。金属音と鈍い衝突音と衝撃。
『キー  ドン ドン ドン 』

衝突音はひとつではなかった。 我が車は前の車に追突し、同時に後続車にも追突された。
いわゆる玉突き事故であり車の総数は4台のうち3台目であった。

そのせいかショックは少なく幸いけがもなかったが車は前後に損傷を受けている。中国系のマレー人であるダンカンは言った。新車を購入したばかりなのにまた傷ついた。
つい最近もガソリンスタンドでフロントフェンダーに当て逃げされまだ修理ができていないのだ。

車から皆ぞろぞろ降りてくるが殺気ばしった輩は誰もいない。けが人も見た感じいないようだ。
きわめて紳士的な話し合いだ。かっての宗主国イギリスの影響なのだろうか。それともアジア的なすべてを受け入れる境地なのだろうか。
皆で相談し警察に電話することになった。
只一人、私の方を気にしながら、しきりに我が相棒のダンカンと話をしているマレー人がいる。
ダンカンが私の方に来て言った。
かのマレー人は4台目の運転手であるが、現在免許失効中である。当然そのことがばれると処罰の対象になる。そこで彼の同乗者であるガールフレンドが運転していたことにしたい。

警察に聞かれたら口裏を合わせてくれとの依頼を受け、皆賛同した。
外国人である私がどういう態度にでるか心配しているとのことだ。

『この程度の事故で、私に警察の事情徴収があるわけがない。 私は言葉が分からないことにしてくれ』
といった。
かのマレー人はこの言葉で安心したようだった。
警察が来た後、ダンカンはこの国では警察は威張っていない。非常に親切だ。とのたまわった。
官吏が威張っている日本と違うというのだ。彼は研修での日本入国時にイミグレで長時間にわたる執拗な質問を受け嫌な思いがあるのを以前聞いたことがある。

現場検証、警察派出所での書類の受け取り、もよりの警察署に同行、四人の運転手が事務手続きを行いすべてが終わったのが11時過ぎ、3時間以上かかったのだ。何故か10人ばかりの事故遭遇者は誰もいらついていなくてのんびり諸手続が終わるまで鷹揚に構えて、口論など一度もなかった。
どうなっているのだと思うのは日本人の非常識だろうか。

もう土産物屋はあいていない。帰って寝るだけだ。
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